3月26日〜28日 北海道 *repo* arai
北海道 パワーウエット入門合宿(第2弾)
この季節、海で育ったアメマスは、雪解けで増水した河川を遡ってくる。そのファーストラン、
いわゆる遡り (のぼり)アメマスを狙って北海道へ行ってきた。
……と言うといかにもカッコよさそうだが、本流でのパワーウェットを体験するのは、
実は昨年の「入門合宿」以来2回目である。丸々一年間、サボっていたのである。そんな空白を取り戻すべく、
往きの機内で『パワーウェットフライフィッシング』を読み返しながら、
イメージの中では #12/13ダブルハンドロッドで60オーバーとファイトする自分の姿が描かれていたのだが……。
今回も、プロフィッシャー
奥田 巌啓さん(ワイルド・エキップメント)から指導を受ける。
最初に目ざしたのは、昨年と同じ十勝方面だ。だが、今年は北海道でも春の訪れが早く、
また前日の雨と気温の上昇のせいで予想以上に雪代による濁りがすすんでいた。
おまけにダブルハンドを握るのは一年ぶりだ。キャスティングから指掛けまですべて、昨年の「合宿」
でせっかく覚えたことを、体がすっかり忘れてしまっていたのである。
この釣りではキャスティングが何よりも重要だ。しかも深くウェーディングを行うのでフラットビームは
指掛けしないと流れに飲まれてシュートができない。この指掛けでキャスティングを行なって、
流れの筋を頭に入れながらリーチをかけて着水させる。この時STヘッドをきちんとターンオーバーさせないと
魚が釣れることはまずない。通常、ランニング部がフローティングラインであるフルラインでのウェットフライの釣りだと、
メンディングである程度修正が可能だが、フラットビームは沈むのでこれはできない、
あくまでもキャスティングで整えないといけない。
と頭では理解しているのだが、サボったせいで、ほぼゼロから練習をやり直しだ。
翌日は一路日本海側に向かう。300km5時間にも及ぶ大移動だ。
ようやく到着した川には素晴らしい流れが待っていた。この川でダブルハンドを振るFFMは、
数年前はまったく見かけなかったそうだが、いまではポイントごとに川へと降りる足跡が見られるようになったという。
だが、難易度は決して低くない川である。
フライは「グレーゴースト」。1本巻くのに30分以上もかかる。もちろん自分に技術がないせいだが、
巻き上げられたフライの美しさは使うのが惜しくなるほどだ。けれども、アトラクターとしても鮭稚魚の
マッチザベイトとしても抜群に効くスーパー・ストリーマーフライだ。
パワーウェットの釣りはリズムである。広大なプール(「ラン」と呼ぶ)をキャストをしながら一定の間隔で釣り下っていく。
その何十回と繰り返されるキャストのすべてが、釣るための「誘い」として意味を持つ。
そのためにはキャスティングから次のキャスティングに至るまでの一連の動作にひとつもミスがあってはならない。
理想にはだが……。
(公大なプールを釣る奥田さん)
遡上魚は基本的に捕食しない。つまり、魚の鼻先にフライを送り届けなければ口を使わせることはできない。
そのため、水深や魚の泳層にあわせて、インターミディエイトからタイプWまでのヘッドを使い分け、
さらにキャスティング技術によってフライを沈めた上で理想的にスウィングさせなければ、まず釣れることはない。
アメマスはボトム近くに着く。そのため根がかりによるフライ・ロストを恐れていては釣れない。
(と言いいつつも、グレイゴーストを失うたびに泣きたくなるのだが…… )
ここまで読まれた読者はすでにお気づきのことと思う。なにをゴタクばかり並べているのかと。
そう、「できない」のである。だから当然釣れない。
だが、そんなへっぽこな私でも、体がようやくリズムを?みかけてくると、同時に「タナ」が取れるようになってくる。
そんな時だ。待望のアタリが来た。そしてファイトからランディング……、
ところが、ふだん8フィートくらいのシングルハンドに慣れきった身体には、これがまた難しいのだ。
しかもこればかりはヒットしないと練習さえもできない。
最初の一尾は40cmくらいだった。だが、うれしい一尾である。
最終日、前日と同じ川でいくつかの区間を巡りながら釣りをする。奥田さんによれば、
今年のファーストランは例年より始まりが早かったせいもあって、その盛期は過ぎてしまったようだが、
大型魚の可能性に掛けてみる。
キャスティングの勘が戻ってきたと思ったら、今度は風に悩まされる。バックハンドキャストがままならないと
釣る場所も限られてしまう。
すべてがうまくいった時、美しい魚との出会いが待っていてくれる。
そして時合を読んで臨んだ最終のポイント、それはフライをスウィングさせ終わってリトリーブし始めて間もなくだった。
ズンッと、フラットビームを引く手に今までにない重さが伝わってきた。と同時にラインは水中に突き刺さったまま
下流へと突進し走り始める。来た!
パニックになりかけながらもどうにかランディングできたのは、丸々と太った遡りアメマスだった。
美しくもたくましく輝く魚体は、遡上(母川回帰)という生命の営みの神秘を思わせる。
かつてこの川には、遡上の時期にはあふれるほどにいたという。だが、年々その数は減るばかりだという。
放流に因らない在来種の場合はその減少はなおさらだ。
北海道とて、決して我々本州の釣り人が思い描くようなパラダイスではあり得ない。
いつまでもこの豊かな自然を大切にしていきたいという願いとともにリリースする。
夢の60オーバーとはいかなかったが、パワーウエット2回目の体験は、それ以上に多くのものを得ることができた。
この贅沢な釣り旅を素晴らしいものにしてくださった奥田さんのおかげと改めて感謝したい。